退職金にかかる税金の基礎|退職所得控除と手取りの目安を解説
退職金は退職所得控除・1/2課税・分離課税という手厚い計算で、給与より税負担が軽くなります。勤続年数で変わる控除や手取りの目安、確定申告との関係をわかりやすく解説します。
退職金は、長く勤めた人ほどまとまった金額になる一方で、「税金がどれくらい引かれるのか」がわかりにくい収入の代表格です。実は退職金(退職所得)は、給与や賞与とはまったく別の、働く人に手厚い計算方法で課税されます。勤続年数に応じた大きな控除があり、さらにその後の金額を半分にしてから税率を掛けるため、同じ金額の給与よりも手取りが多く残りやすい仕組みです。この記事では、退職所得控除・1/2課税・分離課税という3つの柱を中心に、退職金にかかる税金の基礎と手取りの目安をわかりやすく解説します。
退職金が「優遇」される3つの理由
退職金にかかる税金がやさしくなっているのは、長年の勤労に対する報酬であり、老後の生活資金という性格を持つためです。具体的には、次の3つの仕組みが組み合わさっています。
- 退職所得控除:勤続年数に応じた大きな非課税枠が差し引かれる
- 1/2課税:控除後の金額をさらに半分にしてから税額を計算する
- 分離課税:給与など他の所得と合算せず、退職金だけで税率が決まる
この3つが重なることで、退職金は同じ額面の給与に比べてかなり低い税負担になります。実際の手取りを知りたい場合は、退職金手取り計算ツールに退職金額と勤続年数を入力すると、所得税・住民税を差し引いた概算がすぐに確認できます。
退職所得控除(勤続年数で変わる非課税枠)
退職金の税金を考えるうえで最も重要なのが退職所得控除です。これは「この金額までは課税しません」という非課税枠で、勤続年数が長いほど大きくなります。計算式は勤続20年を境に2段階に分かれています。
| 勤続年数 | 退職所得控除額 |
|---|---|
| 20年以下 | 40万円 × 勤続年数(最低80万円) |
| 20年超 | 800万円 + 70万円 ×(勤続年数 − 20年) |
勤続年数は1年未満の端数を切り上げるのがポイントです。たとえば30年3か月勤めた場合は「31年」として計算します。具体的な金額で見てみましょう。
- 勤続10年:40万円 × 10年 = 400万円
- 勤続20年:40万円 × 20年 = 800万円
- 勤続30年:800万円 + 70万円 × 10年 = 1,500万円
- 勤続38年:800万円 + 70万円 × 18年 = 2,060万円
たとえば勤続30年で退職金が1,500万円なら、退職所得控除(1,500万円)と同額のため、課税対象がゼロになり所得税・住民税はかかりません。多くの会社員のケースでは、退職金の相当部分がこの控除で非課税になります。
1/2課税と税額の計算手順
退職所得控除を引いてもなお金額が残る場合、その残額をさらに半分(1/2)にした金額が課税対象(課税退職所得金額)になります。計算の流れは次のとおりです。
- 退職金額から退職所得控除額を引く
- その金額に 1/2 を掛ける(=課税退職所得金額)
- 課税退職所得金額に所得税の累進税率を掛ける
- 住民税(おおむね一律10%)を別途計算する
例:勤続30年・退職金2,000万円の場合
退職所得控除=1,500万円 → 残額500万円 → ×1/2=250万円が課税退職所得金額。この250万円に対して所得税と住民税が計算されます。
所得税は課税退職所得金額に応じた累進税率(5〜45%)で計算し、別途復興特別所得税(所得税額の2.1%)が加わります。住民税は課税退職所得金額のおおむね10%です。1/2を掛けてから税率を当てる効果は大きく、これが退職金の手取りが多く残る最大の理由です。条件を変えて試算したいときは退職金手取り計算ツールが便利です。
なお、勤続年数5年以下の役員や、令和4年分以降は勤続5年以下の従業員でも控除後300万円を超える部分について、この1/2課税が適用されない例外があります。短期間で高額の退職金を受け取るケースでは注意が必要です。
分離課税と「申告書」の提出
退職所得は、給与所得や事業所得などと合算せずに単独で税額を計算する分離課税です。そのため、給与が高い人でも退職金の税率がそれに引きずられて高くなることはありません。退職金だけで完結して税額が決まります。
実務上とても重要なのが、「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出しているかどうかです。
- 提出した場合:退職所得控除や1/2課税が適用され、正しい税額が源泉徴収される。原則として確定申告は不要。
- 提出しなかった場合:控除が反映されず、退職金額に対して一律20.42%の所得税が源泉徴収される。払いすぎた分は確定申告で取り戻す必要がある。
通常は会社から用紙が渡されますが、万一出し忘れて多く源泉徴収された場合でも、確定申告をすれば差額が還付されます。
確定申告が必要・有利になるケース
「退職所得の受給に関する申告書」を提出していれば、退職金については基本的に確定申告は不要です。ただし、次のようなケースでは確定申告をすると得になる、あるいは必要になることがあります。
- 年の途中で退職し、その年に年末調整を受けていない(給与の所得税を払いすぎている可能性)
- 医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税)・住宅ローン控除などを使いたい
- その年の所得が少なく、各種所得控除を使い切れていない(退職所得から控除しきれなかった分を取り戻せる場合がある)
- 申告書を出し忘れて20.42%の源泉徴収をされた
退職した年は給与と退職金の両方が発生し、社会保険料や生命保険料控除の状況も変わるため、全体の手取りを把握しておくと安心です。退職後の給与・再就職後の手取りを確認したいときは手取り計算ツールもあわせて活用してください。
退職金の税金で押さえるポイント
- 退職金は退職所得控除 → 1/2 → 分離課税という手厚い計算で、給与より税負担が軽い。
- 退職所得控除は勤続20年までは年40万円、20年超は年70万円ずつ増える。勤続年数の端数は切り上げ。
- 多くの会社員は退職金の大部分が控除内に収まり、課税ゼロになることも珍しくない。
- 「退職所得の受給に関する申告書」を必ず提出する。出さないと20.42%が源泉徴収される。
- 年末調整を受けていない年や各種控除を使いたい場合は、確定申告で取り戻せることがある。
ご注意:本記事は退職金にかかる税金の一般的な仕組みを解説したもので、控除額・税率・特例の要件は法改正や個別の状況により変わります。掲載の数値や計算結果はあくまで概算の目安です。正確な金額や個別の判断については、勤務先の担当部署、お住まいの自治体、国税庁などの公式情報、または税理士などの専門家に必ずご確認ください。
よくある質問
退職金にはどのくらい税金がかかりますか?
退職金は退職所得控除を引き、残額を半分にしてから所得税・住民税を計算する優遇された方法で課税されます。勤続年数が長く控除内に収まれば税金がゼロになることも多く、給与に比べて税負担はかなり軽くなります。
退職所得控除はいくらですか?
勤続20年以下は「40万円×勤続年数(最低80万円)」、20年超は「800万円+70万円×(勤続年数−20年)」です。勤続年数の1年未満の端数は切り上げて計算します。例えば勤続30年なら1,500万円が控除額です。
退職金で確定申告は必要ですか?
「退職所得の受給に関する申告書」を勤務先に提出していれば、退職金については原則として確定申告は不要です。ただし年末調整を受けていない年や医療費控除・ふるさと納税などを使いたい場合は、申告すると還付を受けられることがあります。
「退職所得の受給に関する申告書」を出さないとどうなりますか?
控除が反映されず、退職金額に対して一律20.42%の所得税が源泉徴収されます。払いすぎになった分は、後から確定申告をすれば取り戻すことができます。
退職金は他の所得と合算して課税されますか?
いいえ。退職所得は給与など他の所得と分けて税額を計算する分離課税です。そのため給与が高い人でも、その税率に引きずられて退職金の税率が高くなることはありません。